ここでは、ちょっとだけ式を用いた解説をしたいと思う。式の導出などは、すべて私の修士論文のAppendixを見て欲しい。修士論文は間違いだらけだけど、Appendixは今でも重宝してるくらい個人的には好きなパートである。
1927年に2つの論文が出ている。
ハイゼンベルク (W. Heisenberg, Z. Phys. 43, 172 (1927).) と ケナード (E. H. Kennard, Z. Phys. 44, 326 (1927).)の2つ。
俗に言う、ハイゼンベルクのガンマ線顕微鏡はまさに最初の論文。これは思考実験のオンパレードである。量子力学における測定の限界について考察をした論文である。量子力学といっても前期量子論のアイディアであるアインシュタイン・ドブロイの関係式を用いている。誤差に関する定量的定義がないものの、反跳を議論するところでアインシュタイン・ドブロイの関係式を用いている。確率の概念は入ってこないが非可換性は陽に登場している。ボルンの確率規則を持ち出さず、議論をしているので半古典論でも同じような結果が出てくると解釈することも出来る(しかし、この一文は私なりの解釈によるので注意)。多くの人はここで不等式が出てくると思われている。しかし、違う。ここは「~」でしかない。原論文読む主義者の人は、誰だって、不等式と「~」は違うと分かるので、それで判定できると思う。不等式がちなみに出てくるのは1930年のこと(W. Heisenberg, The Physical Principles of the Quantum Theory (University of Chicago Press, Chicago, 1930; Dover, New York, 1949, 1967).)である。
なので、
q_1 p _1 ~h
h はプランク定数である。何故、上記で半古典論でも成り立つ可能性があるという解釈をしたのかという解説にうつる。
----- (私見パート:1月24日修正)
『これはシングルイベントに関しての誤差なのか?それとも、統計量としての誤差なのか?』
これは後ろの議論に影響するので、しっかりと書いておきたい。アインシュタイン・ドブロイの関係式しか用いていないのだから、 シングルイベントでも成り立つように見える。しかし、量子力学を使って定式化する以上、統計量としての誤差しか定義できない。【ハイゼンベルクの原論文には、この点、後者の立場がひかれているようにも見える。 q_1 ist etwa der mittlere Fehler von q という箇所が原論文に対応しますが、これを私なりに訳すと、「q_1は大雑把に言ってqの平均誤差の ようなものである。」と書かれている。(1月24日追記)】ここが後で決定的に重要なところとなる。
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対するケナードの論文である。これは元々、ある量子状態に対して定義される非可換の物理量の分散の間にトレードオフがあるということである。
σ(Q)σ(P) ≧ h / 4π
という式である。これは計算から導ける式である。別に原理でも何でもなく定理である。この意味づけに測定がしばしば登場する。ある量子状態に対して、位置を測定する。そうすると、その物理量は分散が生じる。これは、量子力学の予言が確率的であるということを本質的に使っている。そして、また運動量に対しても同じ事をする。すると、分散に対する積が何か生じる。しかし、ここで同時に測定するという概念にまで飛躍するのには論理的飛躍があると私は考えている。ただ、教科書でこれを不確定性原理と呼んでいることも少なくない(この件に関しては、リンク先のブログを見ると面白い。よくまとまっていると思う。)。なので、違和感を感じる人も少なくないはずである。また、1929年に位置と運動量に対してだけでなく成立するロバートソンの不等式というものが導かれている(H. P. Robertson, Phys. Rev. 34, 163-164 (1929).)。
また、強調したいのは、ケナード・ロバートソンの関係式が実験的に破られたわけではない。しかも、測定の文脈に対する不等式でないということも強調したい。
なので、この2つは決定的に違うものである。 歴史的に見て面白いのは、これが同じ年に出されている論文であることである。
以下、測定とは何か?という大問題にぶち当たる。1932年にフォンノイマンが書いた教科書(J. von Neumann, Mathematische Grundlagen der Quantumechanik (Springer, Berlin, 1932), [ Eng. trans. by R. T. Beyer, Mathematical foundations of quantum mechanics (Princeton University Press, Princeton, 1955). ])でも不明瞭な点として残されていた。
この後、量子測定に関する研究は量子操作の一般論として認識されるようになり、
1970年にデイビスとレイビスによって提唱されたInstrumentという概念。(E. B. Davies and J. T. Lewis, Commun. Math. Phys. 17, 239 (1970).)
1971年にクラウスによる
そして、量子測定の一般論を築き上げた仕事が1984年小澤によって成された(M. Ozawa, J. Math. Phys. 25, 79-87 (1984).)。これらはいずれも無限次元ヒルベルト空間上での理論であり、小澤は作用素環上にCompletely Positive Instrumentという概念を提示し、その一般論を展開した。この仕事により、量子測定の公理が出来上がったとも言える。この仕事を拡張して、重力波検出器の量子測定限界に関する話であったりと広範な応用が見られる。
この量子測定の一般論は、測定器系と被測定器系の合成系によって記述され、測定器系のほうに射影測定を行えば良いということが示された。これは、今、眼前で行われている測定に関する考え方と非常に親和性が高い。
1988年にアーサーとグッドマンは同時測定の理論に関して、ノイズ演算子というものを定義した(E. Arthurs and M.. S. Goodman, Phys. Rev. Lett. 60, 2447 (1988).)。これは現代の観点からすると、同時測定の理論に関する誤差に関する理論と呼ぶべきものであるが、1つ条件があった。それがUnbiased Condition(被測定器系の物理量の期待値と測定器系の物理量の期待値が一致している。)と今では呼ばれている。2つの合成系を考えているために、これを測定器系とか見直すことができるともいえるが、論文にはそんなことは書いてない。 本論文の主張は、同時測定に関する不確定性関係に対する不等式を導いたということであった。
そして、2003年に小澤は誤差、擾乱の定義を量子測定理論からして(この定義に関しての論争はあると思われる。代表例: M. Kitano, arXiv:0803.4377. Y. Watanabe and M. Ueda, arXiv:1106.2526)、そこからハイゼンベルクの主張が間違いだという結論に達した(その具体例は、2002年の論文になっている。(M. Ozawa, Phys. Lett. A 299, 1 (2002).))。これがいわゆる小澤の不等式と呼ばれているものである。
ε(Q)η(P) + σ(Q)η(P)+ σ(P)ε(Q)≧ h/4π
これも、もちろん導くことが出来ます(M. Ozawa, Phys. Rev. A 67, 042105 (2003))。ハイゼンベルクは何を間違っていたのか?統計量としての誤差をきちんと定義すれば、問題がなく数学上正しい不等式を導くことが出来るという点にある。これが今までの仕事の前提にあるバックグランドとしての知識だと思います。
最後に再びお断りですが、私自身理解が至らぬ点があるかもしれませんが、その際は補足をどなたかにしていただけると幸いです。
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