Sunday, January 22, 2012

ハイゼンベルク v.s. 小澤

月曜日に衝撃的なニュースが飛び込んできた。新聞の一面に名古屋大学の小澤さん と ウィーン工科大学の 長谷川さんのグループでの研究成果が載っていた。正直、これほどまで反響があるとは思わずにただただ驚いた。

- ハイゼンベルクの不確定性原理を破った! 小澤の不等式を実験実証 (日経サイエンス)
- 物理の基本原則ほころび 「不確定性原理」修正か 名古屋大など新理論実証 (日本経済新聞社)
- 不確定性原理に欠陥…量子物理学の原理崩す成果 (YOMIURI ONLINE)
- 「不確定性原理」の例外を実証=量子物理学の根幹の一つ―名大など (asahi.com)
- 不確定性原理:量子力学の基本法則に欠陥 名古屋大教授ら実証 教科書の書き換え迫る (毎日jp)

いまだにこの反響は続いている。

さすがにtwitter上やら2chやらでも話題になっているという始末。分野の一員として何かやらねばということから一般向けの解説と物理屋向けの解説の二つを書くことにしました(あくまで、解説と言っても、私、鹿野の理解のした範囲内で書いていますのでご了承願います。)。この記事は、一般向け解説です。

ニュートリノが光速を超えたOPERA実験とは違い、量子力学の前提を覆す結果ではなく、今回の仕事の重要点は、「量子測定」という従来の物理学者があまり考えて来なかったところに焦点を当て、「ミクロなものの測定とは?」という原理的問題について、考え方を根本を変える必要があるということを中性子実験を使って示されたということにある。

不確定性原理」という普段目にしない単語が目に踊るが、この歴史は量子力学というものが誕生した頃の1927年まで遡る。

私の知る限り、初めて「測定」というものの限界に対して何らかの結論を出そうとし、後世まで残る大仕事をしたのは、ハイゼンベルクである。ハイゼンベルクの仕事は、次の通りである。

「小さいもの(量子力学で記述できるもの)を測ろうとした際に、”誤差なく”測定できることはなく、必ずその反跳がある。」

というものでした。じゃあ、測定って何だ?というわけです。これを精密に検討したモデルがガンマ線顕微鏡の思考実験(1927年)というものでした。

測定とは・・・
測定とは普通、何か見たいものと測るもの(巻尺とかそういうもの)を分けて考える。この間の関係を通して、測るものを我々が数値として読み取って、測定される。

これが基本原理。めちゃめちゃ当たり前だと思うことを意外に科学者は定量的な言葉で語ることが出来なかった。しかも、量子力学という予言が確率ということがベースになっている学問にこの概念を当てはめることが、長年の大問題だった。

しかし、1984年、小澤正直氏が提唱した一般的な量子測定を記述するための道具だてを整備してくれた(これをCompletely Positive Instrumentと業界内では呼ぶ。)。(ある意味、インターネットという画期的道具が皆さんに手渡されたようなものだ。それにより、ブログとか新しい文化が始まったのと同様、)量子力学の中でも新しい考え方が次々と作られた。

確率をベースにした量子力学では、「真値」とは何か?という大問題がいまだに存在する。通常、我々がイメージする日常用語の「測定」とは・・・

「真値」は見るべき対象物に備わっていて、それを測るものを使って引き出す作業

であろう。この感覚を忠実に再現しようとして、様々な試みをこれまでに行ってきたと思われる。「誤差」とは「真値からのずれ」として定義されるために、本来測れるべきものではないとされてきた。しかし、今回、それが測ることのできるものだということを実験と一緒に示すことができたと考えられる。ただし、「真値からのずれ」をどのように定量化するかに大きく依存するために、小澤さんが2003年に提唱した不等式(俗に言う「小澤の不等式」)で用いられている測定誤差の定義のもとで更に今回の実験に沿う形でみれられたスピンという測定量に対して、このような事実が導くことが出来る。

また、今回の実験で強調したいのは、これまで結集されてきたウィーン工科大学の中にある中性子操作、検出技術の向上である。
上記の写真(ウィーン工科大のウェブから使用)のように、非常に実験系はシンプルであるが、そのそれぞれが技術の塊であるということである。また、色んな実験がある中で、中性子が最初である量子力学の基礎に関する実験として認知されることになると思う(普通は、光の実験系またはイオントラップと呼ばれる実験のほうが先駆的と今までされてきた。)。世の中を驚かせた実験も写真に写っている実験系からであるという。長谷川さんは昨年、既にこの論文が完成していた頃に名古屋で飲みに行った思い出を思い出す。

「世界を驚かすことが中性子実験でしてみたい」

当の本人がこれを読んでも、ベロンベロンに酔っていて記憶も吹っ飛ぶくらいの時にしゃべっていたので覚えていないかもしれないが、今ではそれが出来たのではないかと思っているし、あの時に交わした酒は今でも忘れられない記憶として残っている。

あまりに衝撃的な「考え方」の変化をもたらした実験が、今回の論文となって結実したのだと思う。

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